八月の路上に捨てる/伊藤たかみ(2006年上半期受賞)


自動販売機のジュースを補充する仕事のさなか、主人公の男性と、先輩女性ドライバーが繰り広げる会話を描いた物語。テーマは離婚です。



離婚を間近に控えた主人公が離婚って何でしょうね、結婚って何でしょうね、と投げかけ、同じく離婚歴のある先輩女性が経験談を語る、という内容。

芥川賞にありがちな、小難しい感じや、やたらにアーティスティックな感じや、やたらに社会派な感じもなく、とにかく普通にすっと読めるドラマです。

舞台も世界観も特に作り込まれていないし、文章もライトなので普通に面白かったのですが、逆になぜこれが芥川賞なのかがよくわかりません。

ただ、一点、離婚に向かう夫婦の心の動きはなんだかリアルで、普通誰だって離婚なんかしたくはないけど、離婚せざるをえない背景が妙に納得感がありました。

離婚の理由も昔ながらの理由ではなく、今どきのDINKSだからこそありそうな理由で、年配者から見ればそんなことで離婚するぐらいならそもそも結婚するなよ、とか言われそうですが、現代の感覚からすれば十分共感できました。

しかし一方で、芥川賞選考員のコメントの「どうしてこんな病んだ人の話ばかりなんだ」というのも納得。。

この作品はタッチが軽快で暗さがないのが救いですが、確かに病んだ人の話は安易っちゃ安易です。

小説ってそういうものだと勝手に決めつけてる部分もありますが、確かにエンターテイメントの一つとして考えれば、当然さわやかで前向きな作品が読みたいですよね、言われてみれば。。

作品の本筋とは関係ないけど、ちょっと目が覚める思いがしました。


↓アマゾンの評価はまあ普通。
八月の路上に捨てる/伊藤たかみ

2000年代の受賞作一覧に戻る

芥川賞作品レビュー