介護入門/モブ・ノリオ(2004年上半期受賞)


これはなかなかぶっ飛んだ作品です。
終始、YO!朋輩(ニガー)!HA HA!みたいな文体で、改行もなく、ジャパニーズヒップホップの「悪そうなやつはみんな友達。でも家族には感謝」みたいな、意外にいいこと言ってんじゃん的な言葉がぎっしり詰まってます。

最初は「えっ、何これ」という衝撃が強く、内容に目を向ける余裕がなかったのですが、文体に慣れて来る頃には、意外にいいことを言い出して、結果としては結構面白く読めました。

金髪で大麻を吸っている無職のロック野郎が、自分のおばあちゃんの自宅介護をする話です。

と言っても何かドラマチックな事件が起こるわけではなく、とりとめなく介護のことや、社会についてブツクサつぶやくような、まさしくヒップホップな内容ですが、だんだん言わんとしていることがわかってくると、自分自身は介護の経験はないのですが、なんとなく共感めいた気持ちになってきます。

介護することに見返りを求めることができないのはわかってますが、自分ならと想像すると、「甲斐甲斐しく世話してる俺ってえらい」という自己満足が唯一のモチベーションになりそうなもの。

そこを乗り越えんとする主人公のおばあちゃん愛は、そこに社会で何者にもなれないがゆえの屈折した達観がありつつも、十分リスペクトに値するものだと思いました。

そして、たぶん主人公の設定からして、作者のモブ・ノリオ氏の実体験なのかなと思います。

そうじゃないとなかなかここまでリアルな心情の吐露は書けない気がしますが、一方でだからこそこの作品が書けたとして、次作からはどうするんだろう、というのも気になります。

芥川賞先行委員のコメント(主に山田詠美)ではYOだのニガーだのカッコ悪いよ的な意見がありましたが、私はそうは思いませんでした。

カッコつけたくてこういう文体にしているのではないと思います。

主人公(おそらく著者本人)の心の中を文章で表現するために必然的な手法だったのではないかと。

もちろん最初は戸惑いましたし、不快感さえ感じましたが、最後にはこの文体が味わいのように思えるようになりました。


↓アマゾンの評価は比較的高いものの、「内容はともかく文体がダメ」という意見が多数。
介護入門/モブ・ノリオ

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