村の名前/辻原登(1990年上半期受賞)



日本の商社マンが中国にある桃源郷と呼ばれる村に商談で訪れ、中国ならではの不可思議な経験を色々するという物語。

中国の奥地という舞台設定、道無き道をひたすら車で走った先にある伝説の村というシチュエーションはとても興味深く、自分自身中国の田舎や古鎮は好きなので、紀行文的な関心から導入ではすごく引き込まれるものがありました。

ただ、この作品のテーマは、「共産主義で官僚主義の不可解な中国」という色合いが濃く、主人公が滞在する村でも謎めいた出来事が多発するのですが、溺死体が浮かんだりするのはさすがにやりすぎじゃないかと。。

もちろん怖い怖いと思っているから洗濯物が幽霊に見える、ということはあるのでしょうが、夜中に突然叫び声が聞こえたり、犬肉を喰らう会合があったり、必要以上に「中国はわけのわからない怖い国」というところが強調されており、それが行き過ぎると恣意的なものを感じて冷めてしまいます。

とはいえ、今でこそ中国は身近な存在ですが、1990年当時の時代背景を踏まえると、たしかに不気味な謎の国だったと思うので、当時の空気感としては正しいような気もします。

一方で、例えば司馬遼太郎の「街道をゆく」でもたびたび中国は登場しますが、そこで描かれる中国の姿とはだいぶ違っていて、どちらがリアルなのかはわかりませんが、読み物としては司馬先生の視点の方が好ましく感じます。

あと、導入は面白いのですが、設定の面白さ一本の感が否めず、後半になると落とし所を探るような展開になり、冗長の感が否めませんでした。

まとめると、好きなテーマだけに持って行き方が残念、という感じです。


↓アマゾンのレビューではまあまあの評価。実際中国でビジネスをしている人が読むと共感できるのかもしれません。

村の名前 (文春文庫)

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