妊娠カレンダー/小川洋子(1990年下半期受賞)


姉の妊娠から出産までを、妹である「私」の日記形式で描いた物語。自分自身、直近で妊婦を横で見ていたので、とても共感できる作品でした。

書評などを見ると、ホラーや悪意といった単語が並んでいるのですが、私はそうは思いませんでした。

妊婦がぶくぶくに肉がついたり、匂いに敏感になったり、妙なものが食べたくなったりというのは普通のことで、それを妹が気持ち悪く感じたり、迷惑に感じたりするのもごく自然な感情だと思いますし、妊婦自身が自分の胎内の生物に違和感を感じるのもすごくわかる気がします。

逆に妊娠、出産を美化して、四六時中幸福感しか感じないなんてのは嘘くさいですし、ある種宗教的なものさえ感じます。

問題は姉に「毒入りグレープフルーツジャム」を食べさせるくだりですが、これを悪意とみるかどうかは解釈が難しいところです。

個人的には悪意とは思いませんでしたが、じゃあ何なのかというのも判然としませんが、でも何となくわからなくもないです。

だいたい輸入グレープフルーツに有害物質が付着していたとしても、それが直接胎児に影響を与えるなんてのは、事実そうだとしても実感がわきませんし、腹立ち紛れのちょっとしたいたずら心で、親しい間柄ならではの幼児的感情のような感じがします。(人の食べ物に鼻くそを入れる的な)

アマゾンのレビュー↓では、割と悪意としての解釈が多かったのですが、私はむしろ微笑ましい作品という印象でした。

妊娠カレンダー (文春文庫)

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