長男の出家/三浦清広(1987年下半期受賞)



息子が僧侶になりたいと言い出して、やがて和尚の導きによって出家の手続きをして、本当に出家してしまう物語。修行に専念するために両親との接触を断たれてしまうのですが、その状況を父親の視点で描かれます。

この作品は20年前ぐらいに一度読んだことがあり、とても面白かった記憶があります。

当時何が面白かったのかまでは記憶にないのですが、きっと息子のほうの視点で読んでいたんだろうなあと想像され、20年後に改めて読むとごく自然に父親の視点で読んでいる自分がいて、感慨深いものがありました。

しかし、父親視点で読んでみると、まずなぜ長男がそこまで僧侶になりたいのかがよくわからず戸惑いました。

また、母親は出家に反対していて、息子に対してというより、出家をそそのかした父親に対して否定的な態度を取り続けるのですが、逆になぜ父親が推進的なスタンスなのかもよくわからず、ここでもまた戸惑いました。(母親の意見が一番正論だし、しっくりきました)

親離れ子離れの話だと言ってしまえばそうなのですが、これが全寮制の高校で甲子園を目指します!という通俗的な話だとしたら、もっとすんなり入ってきたと思います。

そうではなく僧侶という特殊な設定なのであれば、もうちょいなぜ僧侶になりたいのか、なぜ息子を僧侶にしたいのか、が語られてもいいような気がしました。

でもはっきりした理由なんてないというのもまた真実のように思え、20年前に何の疑いもなく読めてしまったのは、そういうことのような気もします。逆になんだか穿った大人になってしまってる自分がいて、それじゃいかんなと反省させられました。

↓アマゾンのレビュー数は少ないですが、評価はまあまあです。
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