青桐/木崎さと子(1984年下半期受賞)


幼いころに両親を亡くした主人公の充江。育ての親である叔母が乳がんで死期を迎えていたが、医者に診てもらうことをかたくなに拒み、日々体が朽ち果てていくのをどうすることもできず看取る。という大変重厚なテーマの物語です。

叔母は病も自分の体の一部として受け入れようとしますが、主人公の充江も幼いころに顔に火傷を負って、傷跡が30歳になった今も残っています。そのせいで結婚もできずにいるけど、傷痕と生きてきた自分を否定したくないと整形手術を拒みます。

火傷と乳がんが対比されていて、どちらもありのままに受け入れたいという思いは同じでも、乳がんのほうは腐敗していく描写がリアルで、自分が同じ境遇になって医療を拒めるかというと絶対無理だなと思いました。 

尊厳死なんて言葉もありますが、思想としての尊厳死は賛同できたとしても、現実の尊厳死は生易しいものではなく、これを受け入れるのは相当に精神を練り上げないと無理だと思います。不謹慎な例えですが、特攻隊員の死の覚悟は一瞬で済みますが、長い月日を経て自分の体が腐敗していくのを受け入れる覚悟はどうすればできるか想像もつきません。。

 そんな「死」と向き合う辛いテーマの作品ですが、説教臭くもなく、ある種自然の営みのように描かれていて、読んでいて不快な感じはしませんが、読み終わってからジワジワ考えさせられ、想像すると恐ろしくなりました。

↓地味な作品のせいかアマゾンでレビューを書いてる人はごくわずか。
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